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2020.08.27 (木)

「 中国対日工作、過小評価は禁物だ 」

『週刊新潮』2020年8月27日号
日本ルネッサンス 第914号

戦後75年、大きく変わる世界情勢の中で、これからの10年、20年、さらにその先、日本をどんな国にするのか、私たちはどんな価値観を家庭、社会、国の基盤に置きたいのか。いまじっくりと考えて方向性を決めるときだ。

米中の価値観の戦いは行きつく所まで行くだろう。ポンペオ国務長官は7月に中国に関する主要な演説を4回行い、その中で世界各国は米中どちらの側につくのか、どちらの価値観を選ぶのか、明確にせよと迫った。

日本だけでなく英国もドイツも、国際社会に対する影響力は小さくない。米国の影響力が相対的に弱まっているいま、むしろ、日本などの影響力は強まっている。経済、軍事を問わず、力のある国には応分の責任がある。日本は世界に対する責任を果たすためにも、米英などと共に中国とどのように向き合うかを考えなければならない。

そんなとき、米国の有力シンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)が7月下旬に発表した調査報告書「日本における中国の影響」を読んだ。「日本に対する中国の影響は他国に較べて限定的」という結論を導き出したこの47頁の報告書は、残念なことに見通しと分析の甘さが目立つ。

右の報告書は、中国は対日影響力拡大のために硬軟とりまぜた手法を駆使してきたが、何ひとつ対日戦略目標を達成していないと書いている。具体例として一帯一路計画への日本の参加、沖縄の独立、日本政府内の親中派勢力育成、日米同盟の弱体化、これらのいずれも実現していないというのである。

右に挙げた事例が実現していたとしたら、日本はどうなっているだろうか。たとえば沖縄独立である。その実現はまさに革命勃発に等しい。日本にとって天地がひっくり返る動乱となろう。

日米同盟の弱体化は、戦後の日本の歩みと近未来の安全保障戦略を根底から変えるものだ。

報告書の目的

トランプ政権、さらにオバマ政権の時から日本が直面している課題が日米同盟の質的変化の必要性である。米国は日本に、より高度の自立を要求し続けている。日本にもそうしなければならないという自覚がある。だが、それはどのような形であっても日米のより強い結束を目指すものであり、同盟の弱体化ではない。

沖縄独立も日米同盟の弱体化も中国が長年狙ってきた戦略だ。そのために彼らは日本の世論をたきつけ、日米を離反させようとしてきた。それらが実現していないからといって、中国の対日情報工作や影響が、他国と較べて弱い、或いは限定的だと結論するのは間違いではないか。

この報告書の目的として「日本特有の事情に加えて他の民主主義国も共有可能な政策を分析し、中国による対日影響工作の失敗の理由を説明すること」と書かれている。

まさに「中国は日本に大きな影響を及ぼし得ていない」という見方が先にあって、そこに到達するための材料を集めたにすぎないのではないか。そう考えれば報告書で一番先に登場する日本の学者が、上智大学教授で親中派の中野晃一氏である理由もわかるというものではないか。

日本に対する中国の影響が限定的だという判断に至ったひとつの証左として、報告書は日本政府の武漢ウイルスへの対処は当初甘かったが、その後、企業に脱中国を勧めるための資金を用意したことを挙げている。

日本政府が用意したのは2435億円。米国は55兆円、独は72兆円である。「デカップリング」(切り離し)に関する日本の覚悟を疑われかねない少額資金だ。これを中国の影響力がそれほど及んでいない証拠とするのは客観的にみて不適切だろう。

報告書には「孔子学院」の記述もあるが、有り体にいって、非常にうすい内容で参考にならない。

中国が他国を弾圧したり影響力を行使したりするときに最も効果の大きいのは経済力の活用だ。貿易も観光も中国政府の匙加減ひとつで相手国に深刻な打撃を与えることができる。豪州政府が武漢ウイルスの発生源について国際社会による科学的調査を提唱したとき、中国は豪州の大麦輸入に80.5%の関税をかけた。韓国が米国の要請で高高度ミサイル防衛(THAAD)を配備する可能性を示したとき、中国人観光客を止めて韓国経済を締め上げた。

こうした事例を私たちは肝に銘じているが、盲点は教育分野であろう。各国の大学には中国人留学生が大量に送り込まれている。殆どの場合、授業料は一括で前払いされ、受け入れ大学にとっては経済的に非常に有難い。そのため大学全体が恰(あたか)も中国に従属するような、中国の批判が出来にくい空間となっている。その間に中国人留学生たちは各研究室で最先端技術の研究や知見を取得し、盗み、中国に持ち帰る。

大学に巨額の利益

教育分野における中国の影響力拡大のもうひとつの柱が孔子学院だ。孔子学院は、漢弁と略称される教育部(文部科学省に相当)の下部組織が始めたもので、中国語教育や中国文化の普及を通して中華圏を世界に広げることを目的としている。もっとあからさまに言えば、中国共産党の影響力を世界中で高めることが目的だ。

『目に見えぬ侵略』(飛鳥新社)で豪州に対する中国の凄まじい侵略ぶりを描いたクライブ・ハミルトン氏は、中国のプロパガンダ部門の長である李長春氏が「孔子学院は中国が海外でプロパガンダを展開するための重要な組織だ」と述べたことを指摘している。

彼らは孔子学院第一号を2004年に韓国に設立して以来、世界162か国に550の孔子学院を設立してきた。日本での第一号は立命館大学だ。余程、よいことがあるのか、立命館は大分県に立命館アジア太平洋大学も設立済みだ。同大の学生の多くが中国人留学生である。名門といわれる早稲田大学にも孔子学院が生まれた。その他12の大学にも孔子学院がある。それらは桜美林、北陸、愛知、札幌、兵庫医科、岡山商科、大阪産業、福山、工学院、関西外語、武蔵野、山梨学院の各大学である。

多くの留学生受け入れと孔子学院設立は相乗効果を生み出しながら受け入れ大学に巨額の利益をもたらす。それは前述した留学生たちの一括前払いの授業料であり、中国側から提供される種々の研究費でもある。その資金は中国教育部から出る建前になっているが、果たしてクリーンな資金なのか。著名な中国研究者、デイヴィッド・シャンボーは、実際には中国共産党中央宣伝部の資金だと指摘している(前掲書)。つまり、日本の多くの大学や研究者が受け入れている資金は共産党中央宣伝部の資金であり、教育部から支出される形で資金洗浄されたものにすぎない可能性があるということだ。

こうしたことに、先進国で最も鈍感なのが日本である。強く警告を発したい。

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